第37話

勲五等瑞宝章

 

長い人生の中で感激した一つは45年11月、「勲五等瑞宝章」を受賞し参内したときと、59年11月、赤坂御所の園遊会にご招待されたときでしょう。わたしは明治の女ですから、ことさら感じたのかも知れません。「勲五等」は美容界では、東北で始めてということでございました。
大正15年、秋田市で初めて「マーセルアイロン」で美容をはじめ、長い間、ただ真実一路。美容一筋に生きてきたことが評価されたのでしょうが、これは皆様の支えがあってのことで、ただただ感謝申し上げるのみでございます。授章して宮中から新宿までの車中で見た富士山のすばらしさは忘れることができません。こころが嬉しかったからでございましょう。

また59年11月、赤坂御所の園遊会にお召しをいただいたときは八〇歳でしたので、娘の付き添いの許可もいただきました。秋の日がさんさんと広い庭園にそそぎ、雅楽が演奏され、国際色豊かな婦人の群れの中で、わたしの隣席の方が、前をお通りの陛下に何かお親しくお話をされ、それに陛下がにこやかにお応えあそばしていらっしゃいましたが、とても爽やかな印象として残っています。
思えば70年もの昔、陛下がまだ摂政の宮様時代(大正10年ころ)、上野の「平和博覧会」におなりになったときでございます。その中の一つに「鉄筋ブロック」の小住宅が展示されておりました。スイッチ一つで暖房も料理も可能・・というこの小住宅がお気に召したとみえ、午後から再度非公式におなりになりました。
当時は、宮中の方がいらっしゃる時は、一般の人は入場禁止でしたが、わたしは出展会社の社員として拝顔しました・・・園遊会で、そういう昔をしみじみと思い浮かべました。
やがて陛下のお側におられました皇太子妃美智子妃殿下から
「環境衛生で・・・美容ですネ」
とお言葉を戴き感激しました。
あのときも「美容をやっていてよかった」と美容に生きてきた長い年月を思い浮かべ、涙したものでございます。

 

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