第17話

結婚式用日本髪かつらの導入

 

戦前のパーマの人気は順調でした。
そんな中、わたしは結婚式に「日本髪のカツラ」の導入を考えました。

そのころ、花柳界もだんだん日本髪がなくなって、洋髪でもお座敷に出るようになっていたのでございます。
花嫁さんの髪は、髪結いさんが結っていましたが、メイキャップや着付けなどは、わたしがやるという時代になっていました。
それで考えたのです。わたしは、昔の「髪結い」の経験はありません。
何年も修業をつんだ髪結いさんのように、美しい日本髪を結い上げることはできなかったのです。

「それならば、美しく結い上げられた日本髪のカツラを用いて、普段はウェーブのかかった流行のパーマヘアーを、晴れの日には、情緒豊かな日本髪に、一瞬のうちに変身させてみたい」
これは、わたしにとって、お客さんの要望に応える一つのアイデアであり、当然の選択でした。
ところが、これが「髪結いさん」たちにとっては、たまらないことだったのです。
日本髪の方から見ますと、自分の職業が中村に奪われるということになったのでしょう。
そのために、いろいろな中傷や噂が飛び交いました。
一番情けなかったことは
「中村はパーマネントに失敗して、慌ててカツラを使った」
ということになり、ある新聞などは
「中村はお客の髪をパーマで、丸坊主にしてしまったので、カツラで弁償した」
と書いたことです。
その新聞社の支局長の奥さんと仲良しだったので
「あんたの新聞は何よ、そんなこと、ありっこないでしょう。ご主人に言ってください」
このときばかりは「マスコミは怖い」と思いました。
しかし、 誰かが最初にやらなければ、先には一歩も進むことができないのです。
それは口で言うほど容易なことではありません。
スリ傷はもちろん、時には骨折覚悟で立ち向かわなければならない勇気が必要です。

今では、花嫁に「カツラ」を被せることは当たり前のことで、逆に自分の髪で日本髪を結い上げることが、とても新鮮でナウイ時代になってきました。
時の流れを思いますと感懐また新たなものがございます。

 

 

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