第18話

笑えぬ笑い話

 

「カツラ」のはじめ頃でございました。
昭和八〜九年頃ではなかったでしょうか。
秋田の旧家の婚姻のときでございました。
花嫁さんの一行は、数台の車で、三時間も揺られながら、婚家に入ったのでございます。
離れ座敷での休憩でした。
花嫁さんがお疲れの様子だったので
「おかつらを、はずしましょう。すこしお楽にあそばしてーー。ここには時間まで、どなたもお出でになりませんでしょうから」
と申し上げたのでございます。
「はい、お願いします」
というので「かつら」をはずしました。
そしてゆっくり、くつろいだのでございます。
休憩後、間もなく廊下の足音がピタリととまって、静かに障子が開きました。
平身低頭した当日の司会者である老人、三太夫がやがて頭を上げ、花嫁さんをみて、目をぱちくりしてしまいました。トンキョな声をだして
「ハ、ハ、ハァーッ」
と深々と頭を下げたまま、やおら障子を閉めて、すたこら長廊下を下がって行ったのでございます。

「御大家の美しい花嫁様は、ハゲ頭のお嫁さまでごじゃった!ーー」
と思ったのでしょうか、しばらくは口も聞けませんでした。
三太夫は「かつら」をまだ知らなかったのです。
わたしどもは後で大笑いしましたけれど「かつら」を知らぬご老人にとっては天下の一大事、お家の一大事だったのです。
昔の律儀さが懐かしく思い出されるのでございます。

 

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