第13話

昔の婚礼


 

昔の婚礼は、今と違って家と家との格式で婚約し、婚礼の儀式を行ったもので、それはそれは、豪華なものでございました。

中央の美容誌「百日草」の要望で「みちのくの花嫁」を、県文化課の許可を得て、旧奈良邸を使わせていただき、演出したことがございます。

日が暮れて夕やみの迫るころ、花嫁の行列は田圃の道を、提灯をもった人を先頭に、「長持ち唄」の中、「祝い樽」「仲人」「花嫁」「付き添い」「両親」「嫁送りの親戚」にまもられながら「タンス」「長持ち」「荷物(荷馬)」とつづいて、婚家に入って行くのでございます。

村の人たちは道で見送り、花嫁さんが見えますと
「嫁っこ来た。来た。嫁っこ来た」
と道に出るのです。

婚家の門前は、水で清められ、まん幕を張り、定紋の高張り提灯を掲げて、家長、親戚一同が迎えるのですが、花嫁さんの「簪(カンザシ)」は金、銀細工の大カンザシで、鼈甲(ベッコウ)細工の細やかな瓔珞(ようらく)がゆらぎ、それは、それは艶やかなものでございます。

花嫁さんが家に入りますと「落ちつきの餅」といって、台所の広い土間で、杵の音をたてて「餅つき」を始めるのです。
一同が座敷に通されますと、酒、魚、祝物、お土産など大盆にならべ、家族、使用人一同が挨拶をし、今度は、搗きたての「アン餅」と「桜湯」を運んでくるのです。
そして花嫁はご先祖の仏様、神棚を拝んで控えの間に移るのでございます。

やがて花嫁は「髪かざり」を取り替え、「白の打ち掛け」「綿帽子」姿で、蔵座敷か奥座敷で、謡いの中、男蝶、女蝶の蒔絵の八寸に、三つ重ねの盃で、三三九度の儀式をおこない、契りの盃を取り交わすのでございます。
嫁ぐ日に着る「白」は
「わたしの一生は、あなたの色に染まります。あなたの家の色に染まります。あなたの心のみままにねあなたの手で染めてください」という、女のせつなくも悲しい誓いなのです。
いや覚悟なのでございます。
謡の中で三三九度の誓いをするのですが、ほの暗い灯のもとであげる祝言の幽玄さ、未知の人へ、これからの運命を託す女の宿命。「悲しさ」「悦び」そして「恥じらい」。こもごもの思いをい抱きながら、日はとっぷりと暮れていくのです。

燭台は赤蝋、文字通りの華燭の儀式にふさわしく、各家の「結びの式」も幽玄でございます。
親子の盃、親戚の盃を交わした後、花嫁さんはいったん休憩に入り、お召替えをしてから、今度は祝宴にはいるのです。

祝宴は「白の打ち掛け」から「黒振」「色振」と、何回かお色直しをし、本膳が下がったあと、花嫁の「お茶」と称して、蒔絵の重ね重にお土産のお菓子と、花嫁のお茶(煎茶)を若い娘さんが運び祝宴を終わるのですが、この祝宴は三日ぐらい続くのが普通でございます。
これが、古きよき時代の豪農の婚礼です。

しかし、時代とともに婚礼も、自宅から料亭「あきたくらぶ」の大広間でなさるようになりました。
わたしも婚礼シーズンには「くらぶ」通いが続きますが、想い出多い名園の一部が変わり、現在の「ニューグランドホテル」が建ち、昨今は季節のよいときには「ガーデンチャペル」の婚礼も行われるようになりました。
時代と共に変わる婚礼様式・・・明治の女にとっては、今昔の感を深くするのでございます。

 

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