第24話

着物の着付け

 

わたしは本当に、よい友人に恵まれたと思っています。
花嫁さんの着付けは、ご懇意にしていただいた田中雅子先生や千葉益子先生のお二人からご指導をいただきました。
田中先生はよく
「あなた、助手を養成しなさい」
といって「助手七分」と言われました。
その通りにしていましたら、いつの間にか、助手がいなければ仕事ができなくなってしまっていたの----。

ずっと以前、京都のお医者さんのお嬢さんのお支度をしたことがございます。
場所 が旅館でしたので、ご両親の見ている前でお支度をしたのです。
お支度が終わりますと、親御さんが言いました。
「あなたがたのお仕事を拝見していますと、外科のお医者さんと看護婦さんのようですね。感心しました・・・」
外科医が手術をするとき、看護婦さんが手際よく器具を差し出す。
あれにそっくりだと言うのです。
正しい仕事をしていますと、それをきちんと見ていてくれる人がいるものだと感動したことをおぼえています。
よく
「花嫁さんのお支度のポイントは 何ですか」
と聞かれることがございます。
何でもそうでしょうが、ポイントは二つあると思います。
一つは「技術」のポイントです。
「技術」というのは、自分の技術を、お嫁さんに当てはめるのではなくて、お嫁さんを引き立てるために、自分の技術が存在しているということです。

もう一つのポイントは、お嫁さんの気持ちになってお世話をすることではないでしょうか。
今のお嫁さんは、流れ作業でスイスイやってしまいますが、昔は二日も三日もわたしたちがお供したものです。

お嫁さんというのは、緊張やストレスで、体に変調をきたすことがあります。
つねに様子を観察して気をつけてあげることです。

これはわたしの経験ですが、婚礼の夜、お嫁さんと一緒にお風呂に入って、頭の油を洗ってあげたこともあります。
お嫁さんの支度ということは、単に着物をきれいに着せるということだけでなく、その期間は、一つの家族というところまで昇華しているものではないでしょうか。

ですから、お嫁さんが家を出るときには、そのそばにつきっきりで、涙が出ればそれを拭いてあげたり、何から何まで母親がわりにやったものでございます。
今ではとても考えられないことでしょうね。

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